和歌と俳句

篠原梵

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寒燈やわれ蓬髪の影とつながる

身のまはりさむざむ煙草のけむり棚曳く

咳しつつ炭つぎゐしもしんとしぬ

茶をのむや掌底に享くそのぬくみ

翳したる指の隙間に炭火うつくし

頁繰る炭火のほむらみだれ尉舞ふ

本の背炭火あかりに立ちならぶ

爪先の冷えてねむれず読み継ぎぬ

蒲団に入り身づくろふ間を息つきあへず

綿死にしか足先冷えて安寐しなさぬ

いねつかむぬくみ足先夜々得がてぬ

笠無くや寒燈とりとめなく鋭し

燈さむし蒲団の庇してねむる

凍闇に臥てのむ煙草のけむり火を帯ぶ

凍闇の扁たき蒲団平たき背

隙間風臥処のうへの闇よぎる

凍みる闇顔よりほかに触れ処なし

朝寒の誰がスリッパの音と聞き分く

蝙蝠傘さむき廊下も狭に干せる

置鏡はかなく不図の手に曇りらふ

窓ぬぐひ夜目を凝らせば深き雪みゆ

夜の明けてゆくと深雪の冷えぞこれ

雪厚き幹見ればわが汽車北に対ふ

すれちがふ汽車の窓透き雪山あり

雪堆く踏みかためられ長き町なる

頭巾しめり吹雪ぞ顔にひびくなり

息いたく白く煙草のけむりあやなし

雪の山とほくなりゆき襞立ちぬ

スチームより夕日つめたくなりさし入る

スキー携つが目だたぬ群にまぎれ入る

網棚のスキーたばこにけぶりし燈に

人いきれヒーターいきれ窓に白し

車窓なる闇に額を当て冷やす

明けそめぬ霜も芽麦も色にほのみゆ

窓うごきはじめぬ窓は斜めを増す

明け方の暗さもどりし深雪に降り立つ

雪眼鏡空のむらさき周りより

新雪のスキーの音の上に立つ

麦の畝集まりゆきて丘を越す

顔窓に移る麦野にくらみ浮く

利根明り菜の花明り窓を過ぐ

春の闇われひと映る窓にあり

濤くだけ生るる風にショールなびく

浜遊園東風の噴水のみ生きもの

東風すさび燈台の灯の長くなり来ぬ

磯続き外川村はかげろへる

砂ふかき直根の茱萸を家苞に

重ねられ生きたる利根の蟹を苞に

津の人のかへりみぬ土筆ここだ摘む