和歌と俳句

篠原梵

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水著の上にタヲル羽織るはさびしからずや

水著ししぴちぴちしたる胸ちかし

その中にわが浜傘のあくまで赤し

水底にあるわが影に潜りちかづく

わが乗りし波の磯騒はるかきこゆ

汐ぬくくつたふ諸の手垂れて佇つ

肩の汐ぬくくつたはり中指より落つ

汐手よりしたたり砂の玉となる

汐だまりぬくめりからだ容るる深さあり

雲母砂手にも足にも水著にも

波にからだ高まるおもひ離れざり

夜目にただ黒き水著の吹かれをり

人おほくいねたる蚊帳の見ゆるあり

ちりやすくあつまりやすくサヨリらは

土用波小さき浦曲をどよもせる

去らむ頃垣のコスモス咲かむとすらむ

もてゆけと十六ささげともにもぐ

いくそたび車窓をぎらぎら灼く川あり

展け来し伯耆は月にけぶらへり

海の奥かすみひかるところ隠岐

海風や日覆の内にみやげ選る

夏帽にけもののごときわがにほひ

青芦とポプラのさわぐ津にも寄る

船の波空を揺りゆき芦を揺る

夕焼けのしてゐる松江あらはれぬ

秋桑のひかりの中を登りゆく

因幡なるげんのしようこは花細し

月くらき尼子の山を目のあたり

こほろぎの遠きは風に消えにけむ

燈にあたり畳にあたり蝉鳴きつ

コーヒーの氷にかけら音すなり

小さくなる彼の応ふる夏帽子

南風の帆桁頭上をうなり過ぐ

帆索持つ南風のびむびむこもれる

南風波をかぶり衝きぬき艇首ゆく

帆おろすやヨットの奢り巻き込みつつ