和歌と俳句

涅槃 寝釈迦

金色に涅槃し給ひ了んぬる 立子

足音がかたまつて来る寝釈迦かな 青畝

美しき印度の月の涅槃かな 青畝

はりつけにあらず寝釈迦は寝給へり 

涅槃の図白きは象の歎けるなり 誓子

寝釈迦より百足蟲も金を頒たれたり 誓子

退きて金色の大寝釈迦のみ 誓子

釈迦眠る蹠に山を画かれて 誓子

頭の方に廻り寝釈迦の頭を眺む 誓子

近海に鯛睦み居る涅槃像 耕衣

ねはん図の混んで生きとし生けるもの 青畝

竹の葉を撫で分け頼む涅槃像 耕衣

山寺や涅槃図かけて僧一人 立子

薄暗き野寺に惚れる涅槃かな 不死男

南無阿弥陀跣のくにの寝釈迦かな 青畝

涅槃の日心の友を訪ねばや 立子

まどかなる頬に枕す寝釈迦かな 青畝

手まくらの金ことに照る寝釈迦かな 爽雨

涅槃図絵月より現れて解きおろす 爽雨

隈の月隈なき舞蝶涅槃の図 爽雨

昼を夜にし鴟尾の月あり涅槃寺 爽雨

貧乏はいそいそ涅槃図をひろげ 双魚

涅槃会のあつまりて齢にぎやかに 双魚

涅槃図に和田のうろくづ描かれず 青畝

垂涎のごとき涙に涅槃泣 静塔

北近江ねはんの月の明るさよ 青畝

釈迦の足揉みて捻りて涅槃哭く 誓子

美女更に美女涅槃哭く顔ゆがめ 誓子

座る余地まだ涅槃図の中にあり 静塔

乾坤をゑがけり涅槃者を含め 静塔

劫よりも永き時まで涅槃さる 静塔