和歌と俳句

秋元不死男

啄木忌蜜柑の皮を灰皿に

鶴唳の春寒き水ひびきけり

風死して翼休める谷桜

散るや瀬音づくりに岩は老ゆ

麦踏をひとり見しのみ十円区

ぬかるみが柩車あやつる遅日かな

書架組めば春の雪嶺臠はす

靴裏に都会の固し啄木忌

花吹雪磁気みなぎらす変電所

茎立や海へ撓の飛行雲

鯛煮えて海峡はしる春の雷

鍵盤拭いて音かきまはす雪解風

潦あれば日があり卒業

三月やモナリザを売る石畳

虚子死して草餅のかぐはし青し

遠天に雪の栗駒仔馬撫づ

白珠や寺道寂びて花馬酔木

光堂出るや花菜を曲げる風

経文の金泥燦と濃山吹

巣づくりの鳥影窓に朱唇仏

満腹や絮のたんぽぽ墓地に浮き

干パンツ抜けて田螺へ今の風

歯が鳴つて欠伸がしまる鳥雲に

薄暗き野寺に惚れる涅槃かな

木瓜咲くや歯と飯茶碗欠けもせで