和歌と俳句

秋元不死男

野を焼いて補遺の堤へ火を移す

麦踏みに隔世の顔なかりけり

どうどうと雪解に借りし詫ことば

剃刀に充電二月終りけり

妻も憂し胸襟ひらく干鰈

紅梅や露伴も稿を急かれしや

ぜんまいが疑問符つくる島の道

苦節には十年は足らず冴返る

春鮒に沼の齢を尋ねけり

釣橋に椿を持ちしわが重み

こころにも影落しゆくつばくらめ

母の日の長湯や存と亡うつつ

わが翁眉を手草に東風の中

跫音のいづくへ去りし雛納め

故友みな目を開きをり春の星

雨性の母の忌日の花の雨

田に付けて遠きの花唇かな

山吹や酒断ちの日のつづきをり

紅梅や句集出しても出さいでも

わが立てば病壁垂るる花ぐもり

かく痩せて脛おもしろや春の雷

あたたかや起立助ける妻の肩

世はそろりそろりと進む足

春惜しむ白鳥の如き洩瓶持ち

床ずれや天に寝返るつばくらめ