秋元不死男
白樺の庭東京の蝶弱し
尼僧きて藤のむらさきくもりけり
寒明ける涙ぐむ目の牝鹿立ち
婆が来て蝶に鏡の盥置く
踏みはづす手乗り文鳥あたたかや
蛤や手足小さき秋元家
母の忌の目の中にほふ三葉芹
しづしづと沈む軽石寒明くる
老鶏に衰へ見せぬ雪解川
叱られて仔牛が坐る遠霞
むらさきの藤房死者の忘れもの
縛らるることにも魅力耕せり
火山行二月寒尾の六歳馬
馬上に椿持つドン・キホーテならば槍
受洗後のさま全容の落椿
うぐひすや泪を拭ふ指拙に
彼岸波踏んで潜水服沈む
子が食うて若鮎惜しむ絹の骨
わが生きて弟子の子を抱く西東忌
この池の愛蔵の水温みけり
死者に咲く賞杯の白チューリップ