一切のこの世の霧に霧笛鳴る
山脈の果の岬にちちろ鳴く
石炭の尽きし山々紅葉せる
着陸の態勢土佐の垂穂見ゆ
珊瑚礁冬の紅身の肉なるよ
アンテナはホテルの九輪霜光る
トラックに積もれる雪の厚衾
北海の幹線雪の狭軌道
雪降らしおのれも白き天狗山
雪嶽の尾根越ゆる道白き道
禅寺の最大の餅三升餅
初御空峰を守れる孤つ松
天井にまで初釜の湯気昇る
釈迦の足揉みて捻りて涅槃哭く
美女更に美女涅槃哭く顔ゆがめ
紅椿荒石をもて荒瀬とす
水神の龍長堤に花咲かす
馬の子に生れて襟裳岬を食ふ
国後へ突き出す鱒の定置網
峰雲に鉄帽冠る天文台
国後の青嶺の墓に詣られず
青伊吹崩れの生傷絶え間なし
詰め寄せる山無し尾張青田には
石臼を置きて心より井を噴かす