和歌と俳句

山口誓子

雪嶽

山の井は噴きて溢れてとどまらず

朝粥に庭見ゆ簾短かくて

林泉に足の裏向け昼寝せる

昼寝寺欄間に浪の逆巻ける

丹波への夜道が通る谿

落蛍俯伏せのまま火を点す

仏恩に浸る銀杏の大緑蔭

蓮池に雨繁くなる慈雨愛雨

大寺の蓮の葉すべて承露盤

蓮広葉仏に露の珠捧ぐ

蓮の葉のうてなの露は動く珠

送り火の「妙」女偏高くして

送り火の「大」真紅にて蚯蚓脹れ

大文字画起す火に力入れ

母神には紅葉着飾る木も子なり

玉垣の朱まで紅葉の朱を強め

黄落に硫黄の滝の黄なる滝

風倒の稲の衾に寝てみたし

芒の穂甘蔗の穂頭を低うして

紅玉の冬日懸れるゴルフ網

木曽古道雪白くして猶存す

伊吹山他山に雪を頒け惜しむ

長襞に長雪富士は弥高し

裲襠を飾るホテルのクリスマス

芭蕉忌の長蝋燭に長火立