和歌と俳句

山口誓子

雪嶽

キャタピラーならず稲田の祭山車

黄葉して藤棚はなほ蔭つくる

懸崖菊城は懸崖石の反り

稔り田に鉄塔の影股開く

珊瑚礁露頭をここに黍の岡

大円の海の中心黍の岡

島はみな斎場甘蔗穂を捧ぐ

甘蔗みな白穂をかざす祭祀なり

鬼薊咲けり山号幽霊山

紅蓼の花も遍路の仏花なる

火の山の岩をも雪は白くして

雪積みし地獄谷より硫気煙

火口壁黒く爛れて雪を待つ

冬山の犬返しより犬帰る

雪道のお中道まで雪の富士

雪の富士窪むは宝永山火口

聖樹の燈梢に点る北極星

初御空千木を開きて受け給ふ

初詣御手洗川に銀の銭

富士霞む伊吹も霞む距たりて

春の潮金華山より大曲り

頂上の残雪白き吹流し

伊吹山眉間に縦の雪残る

雪残る白山姫の白額

雪の責免れ近江耕さる