和歌と俳句

山口誓子

雪嶽

微なれども近江の早苗眼に見える

田の早苗湖へ筋目を通したり

霧に立つ噴気山の名一切経

橋立が清濁分つ秋の海

稲刈りし黒田火山の裾の田は

稲刈られみな仰向けに臥かされて

曲り畝なぞりて稲架も曲り立つ

みちのくの藁塚藁の蓑を着て

丹波猪垣てらてらのブリキ板

山襞に入り込める田も黄となれり

芒の穂風に俯向く反り返る

高原の芒に老の早く来し

海神のため円座敷く鬼薊

冬凪の七里沖縄直ぐそこに

嶺の雪下りて九頭竜川となる

東海の天に閊へる雪の富士

原始より碧海冬も色変へす

芭蕉忌の寺に長石横たはる

みちのくへ向く芭蕉忌の芭蕉の眼