和歌と俳句

山口誓子

雪嶽

葭戸過ぎ几帳も過ぎて風通る

手花火の火は水にして迸る

無より咲く線香花火の火の華は

祭山車励ます幡の車輪紋

山脈に国を分たれ祭山車

奥宮へ登らずお釜まで登り

光太郎彫葉の上の雨蛙

鵜の潜る意志は曲げたる頚に見ゆ

緑眼で鵜は見る夜の水中を

口出して金魚水面の空気吸ふ

蘭鋳の臆病鰭を振りて逃ぐ

蛍谿足音の無き人が来る

蛍火の降り来て水に滴るよ

澄む水になほ存命のみづすまし

紫陽花の変化のあとの枯変化

日の国の向日葵のこの小輪よ

霊山の筍の皮弥黒し

磨崖仏三歩離れて巌の冷え

堂の冷え脳天にまで突き上がる

望の夜に着陸の燈の微々たる燈

明るきは明月の輪のぐるりのみ

颱風の浪の白馬が堰を超す

古戦場いまは籾殻散乱す

日和見の藁塚が立つ関ケ原

墓の頭に盆の供物を戴かす