和歌と俳句

山口誓子

雪嶽

懐炉秘す年の始の神仕へ

初日出づキャデイ早出の七時には

初詣神馬の横目にて見らる

海霞み尾根が天地の界なす

大幅の春水木曽の三川は

高嶽に残雪お雪畑なす

生身なり女雛は額光らせて

鐘響く遍路の吾の身の裡に

遍路撞く棕梠の撞木のよき音す

蜆船妻ゐて河を暮しの場

大日の御前梅が枝垂れ咲く

如来出て掌に受け給ふ枝垂梅

満を持しゐたる落花の無尽なり

放生池魚鱗のための花吹雪

美濃げんげ田に墓近江水田に墓

たんぽぽの絮の円満具足相

雲の峰つづく日本の馬の背に

雲の峰連なる下に越の国

峰雲の贅肉ロダンなら削る

正しき田歪むた伊勢の青田にも

尊めり神の青田の縦の筋

青田には賢治の魂の鎮まれる

縦筋と横筋ありて唯青田

水塊の切れぎれ長き滝をなす

長滝を垂らし峡壁向ひ合ふ