よしさらば今はしのばで恋ひしなむ思ふにまけし名にだにも立て
年ぞふる見るよなよなも重なりて我もなき名か夢かとぞ思ふ
心さへまたよそ人になりはてば何かなごりの夢の通ひ路
あらざらむ後の世までを恨みてもその面影をえこそ疎まね
いかなりし世々の報のつらさにてこの年月によわらざるらむ
面影も別れにかはる鐘のおとにならひ悲しきしののめの空
雲かかり重なる山を越えもせず隔て増るは明くる日の影
おほかたの露はひるまで別れける我が袖ひとつ残る雫に
こひわびてわれとながめし夕暮もなるれば人のかたみ顔なる
頼めぬを待ちつる宵も過ぎはててつらさとぢむる片しきの袖
あかつきにあらぬ別れもいまはとてわがよふくればそふ思ひかな
葉をわかみまだふしなれぬ呉竹のこはしをるべき露の上かは
悲しきはさかひことなる中としてなき魂までやよそにうかれむ
涙せく袖のよそめはならへども忘れずやとも問ふひまぞなき
ふるさとを出でしにまさる涙かな嵐の枕ゆめにわかれて
やすらひに出でにしままの月の影わが涙のみ袖にまてども
時のまに消えてたなびく白雲のしばしも人にあひみてしがな
知らざりし夜深き風のおともにず手枕うとき秋のこなたは
さはらずばこよひぞ君を頼むべき袖には雨のときわかねども
かぎりなき下のおもひの行方とて燃えむけぶりのはてや見ゆべき