和歌と俳句

霞 かすみ

一葉
わたつ海の波のいづこに立ち初て果なくつゝむ春の霞ぞ

一葉
春がすみたちさりかねて見つるかなこやふる里のあとと思へば

行く人の霞になつてしまひけり 子規

大国の山皆低きかすみ哉 子規

境に入つて国の札とふ霞かな 碧梧桐

旅人の台場見て行く霞かな 漱石

霞立つて朱塗りの橋の消にけり 漱石

霞むのは高い松なり国境 漱石

登りたる凌雲郭の霞かな 漱石

女木に登り軍見てゐる霞かな 虚子

塔五重五階を残し霞みけり 漱石

子規
霞む日をうてなに上り山を見る山遠くして心はるかなり

鬚剃るや上野の鐘の霞む日に 子規


筑波嶺ゆ振放見れば水の狭沼水の廣沼霞棚引く


筑波嶺の巌根踏みさくみ國見すと霞棚引き隔てつるかも


春霞い立ち渡らひ吾妻のやうまし國原見れど見えぬかも


筑波嶺の的面背面に見つれども霞棚引き國見しかねつ


春霞立ちかも渡る佐保姫の練の綾絹引き干せるかも

我妻もかすめばをかし根深畑 虚子

大いなる港に作る霞かな 碧梧桐

熊の来て牛闘ひし霞かな 碧梧桐

風立てば霞の奥も波白し 碧梧桐

故郷を舞ひつつ出づる霞かな 漱石

御堂まで一里あまりの霞かな 漱石

山霞む山にも運河記念林 碧梧桐

千樫
かへり見る鳥居の奥の夕がすみ木ぬれの空はいまだあかるし

千樫
ゆふがすみうすくつつめるこの丘の社の町に灯はともりたり