秋の夜を寒みわびつつ鳴く雁の霜をのみきてたちかへるかな
しののめに秋おく露の寒ければただひとりしも蝉の鳴くらむ
秋すぎばちりなむものを鳴く鳥のなどもみぢばの枝にしもすむ
秋の夜の雁は鳴きつつ過ぎ行けど待つことのはは来るとしもなし
ゆく雁のとぶことはやく見えしより秋の限りと思ひ知りにき
なく雁の声だにたえてきこえねば旅なる人は思ひまさりぬ
いつしかと春をむかふるあしたにはまづよき風の吹くぞうれしき
さよふけてなほ寝られねば春風の吹きくることも思ほゆるかな
ひととせに冬くることは今ぞしるふいおきすれば明かしがたさに
あたらしき憂へはおほく寒き夜のながきよりこそはじまりにけれ
物思ふ心はひとにくだくれどあつきおきにぞおよばざりける
我が髪のみな白雪となりぬればおける霜にもおとらざりけり
あくまでにみてる酒こそ寒き夜はひとのみまでにあたたまりける
老いて寝る目ははやさめぬとこしなへ夜半にあくれば寝てのみぞふる
よひよひにまだおく霜のかろければ草葉をだにもからさざりけり
としとしとかぞへこましにはかなくて人は老ひぬるものにぞありける
ひとりして燃ゆる炎にむかへればかげをともなふ身とぞなりぬる
かくばかり老ぬとおもへばいまさらに光のつくるかげもをしまず
おきつより吹き来る風はしらなみの花とのみこそ見えわたりける
照る月は波の心に照らされてひとつ玉とぞ見えわたりける