和歌と俳句

藤原定家

閑居百首

むれてゐし同じなぎさの友鶴に我が身一つのなど遅るらむ

こす浪の残りを拾ふ濱の石の十とて後も三年過ぐしつ

おしなべて及ばぬ枝の花ならばよそにみかさの山も憂からじ

かげ清き雲井の月を眺めつつさても経ぬべきこの世ばかりを

これもまた思ふにたがふ心かな捨てずば憂ひを歎くべきかな

頼むかな春日の山の峯つづきかげものどけき松のむらだち

跡絶えてそなたとたのむ道もなし南のきしのしるべならでは

しかばかりかたき御法の末にあひてあはれこの世とまづ思ふかな

花の春もみぢの秋とあくがれて心のはてや世にはとまらむ

世の中をおもひのきばの忍ぶ草いく世の宿とあれかはてなむ

鷺のゐる池のみぎはに松ふりて都のほかの心地こそすれ

行きかはる時につけてはおのづからあはれを見する山のかげかな

瀧のおと峯のあらしの一つにてうちあらはなる柴の垣かな

里びたる犬のこゑにぞ聞こえける竹よりおくの人のいへるは

菊枯れて飛びかふ蝶の見えぬかな咲き散る花や命なるらむ

さかのぼる波のいくへにしをれけむ天の河原の秋のはつかぜ

黒髪のまじりし雪の色ながら心の色は変はりやはせし

草枯れの野原の駒もうらぶれて知らぬさかひに長月のそら

つてにきく契りもかなし相ひ思ふこずゑのをしの夜な夜なの聲

いかばかり深き心のそこを見ていくたの川に身のしづみけむ