和歌と俳句

藤原定家

十題百首

ももしきやもる白玉の明方にまだしもくらき鐘の聲かな

隈もなき衛士のたく火のかげそひて月になれたる秋のみや人

秋津島をさむるかどののどけきにつたふる北のふぢなみのかげ

宿ごとに心ぞみゆるまとゐする花の都のやよひきさらぎ

むらすすき植ゑけむあともふりにけり雲井を近くまもるすみかに

見馴れぬる四年をいかに忍ぶらむかぎる縣の立ちかはるとて

旅枕いくたび夢のさめぬらむ思ひあかしのむまやむまやと

柴の戸よ今はかぎりとしめずとも露けかるべき山のかげかな

露じものおくての山田かりねして袖ほしわぶる庵のさむしろ

いでてこし道の篠原しげりあひて誰ながむらむふるさとの

年の内はけふのみ時にあふひ草かざすみあれをかけて待つらし

神代より契りありてや山藍も摺れる衣の色となるらむ

さやかなるくもゐにかざすひかげぐさ豊のあかりのひかりませとや

道もせにしげる蓬生うちなびき人かげもせぬ秋風ぞ吹く

霜結ぶ尾花がもとのおもひぐさ消えなむ後や色に出づべき

あれにけり軒のしたくさ葉をしげみ昔しのぶのすゑの白露

われもおもふ浦のはまゆふ幾重かは重ねて人をかつ頼めとも

櫻あさのをふの下露したにのみわけて朽ちぬる夜な夜なの袖

路芝のまじるかやふのおのれのみうち吹く風に乱れてぞふる

流れても思ふ瀬による若芹のねにあらはれて恋ひむとやみし