和歌と俳句

藤原定家

十題百首

草も木もひとつに落つる霜のうちに葉がへぬ松の色ぞ残れる

いそのかみふるの神杉ふりぬとも常磐かきはの影はかはらじ

まきもくの檜原のしげみかき分けて昔のあとを尋ねてぞ見る

けふ見れば弓きるほどになりにけり植ゑし岡べの槻のかた枝

旅まくら椎の下葉ををりかけて袖も庵もひとつ夕露

月もいさ槙の葉ふかき山のかげ雨ぞつたふるしづくをもみし

鏡山みがきそへたる玉椿かげもくもらぬ春の空かな

夕まぐれ風吹きすさぶ桐の葉にそよ今更の秋にはあらねど

しぐれ行くはじの立枝に風こえてこころ色づく秋の山里

こずゑより冬の山風はらふらしもとつ葉残るならの葉がしは

しのぶ山こまちの奥にかふ鷲のその羽ばかりや人にしらるる

梓弓すゑの原野にひきすゑてとかへる鷹をけふぞあはする

風立ちて澤邊にかけるはやぶさの早くも秋のけしきなるかな

枯野やく烟のしたに立つきぎす咽ぶおもひやなほ増るらむ

夕立の雲間の日影はれそめてやまのこなたをわたる白鷺

鳴子ひく田のもの風になびきつつなみよる暮れのむら雀かな

深草のさとの夕風かよひきて伏見のをのにうづらなくなり

さらぬだに霜枯れ果つる草の葉をまづうち払ふにはたたきかな

人とはぬ冬の山路の淋しさよ垣根のそばにしとどおりゐて

つばくらめあはれに見へるためしかな変はる契りは習なる世に