しをれぬる 袂にそへて いとどしく 老いの波さへ つつむとを知れ
なにとなく おぼつかなきは ふるさとの 妹が恋ひしく なるにあるらむ
つれもなき 人に見せばや をみなへし あだし野の辺に まねくけしきを
おのづから しめちがはらと 頼めおかば 露の命も それにかけけむ
たちにける あとをも知らで ものこしに 契りはてつと 思ひけるかな
ちかごとも 憂き身はこりぬ 我といへば 神をも神と 君が思はぬ
ここをさも あらぬ人ぞと いふならば 我も名をこそ かへてたづねめ
かそいろは いかにうらみて いさむとも こひ死なずとて 生けるべき身を
むつれ来る 人には見せじ 恋衣 たちそふ老いの なみもはづかし
逢坂の 関のなこそに なりぬるは あやしやいかに ふみや違へむ
待つ方の くるまの音は わが門を 過ぎぬまでこそ うれしかりけれ
今宵さへ いねとかへすは あきのたの かりに契りし ひとのはかさは
たまづさは たままく葛に あらねども うらみて露ぞ いとど零るる
かたらひし ことやくやしき ほととぎす 日を経て雲の よそになりゆく
逢坂を 越えしは夢と 見しかども 袖のしみづは うつつなりけり
今はただ ひとめばかりの 言の葉を かきな絶えそと 思ふばかりぞ
逢ふとても 命にかへぬ 旅ならば せめても夏の よをばうらみし
あさましや またむつごとの 程なるを いかに鳴きぬる 鳥のねぞこは
はるばると 波路をわけて こゆるぎの いそくと君は 知らずやありけむ
たかさごの 松としきかば いかばかり いそべの波の いそがれもせむ