はやく行く いはまの水の わくら葉に うきてもめぐる あはれ世の中
にはたづみ はかなくむすぶ うたかたの 消ゆるもよその 袖の上かは
はるののに やくと萌えゆく 若草の あはれをこめて たつけぶりかな
あひにあひて よを秋風の 吹きもあへず まつやふれぬる 草の葉も憂し
世の中よ なほあはれなり まぼろしの うつりやすきは ならひなれども
うばたまの 夢とみつつも おどろかす ながきねぶりに むすぼほれつつ
いとひかね うきは身にそふ かげろふの あるかなきかの 世をや頼まむ
谷風の ひびきばかりを ちぎりにて 聞くもあやなき やまびこのこゑ
ながむれば むなしき空を うき雲の さすらへはてむ ゆくへ知らずも
秋の田の 穂のうへてらす 程もなし 闇をはなれぬ いなづまの影
神垣に ひくしめなはの たえずして 君につかへむ 事をしぞ思ふ
春日山 まだ谷ふかき いはね松 かたきは神の めぐみなりけり
ことしだに 松にはかけよ 藤の花 いかにもかさの やまの名も惜し
春を待つ 袖にはいつか こむらさき わが元結の 霜ぞふりぬる
ねきかくる なみだのいろや ふかからむ おもはぬ袖も あけの玉垣
うしとのみ 三とせかけつる 年波の なみなみならで 身のしづむらむ
みなかみの あはれはかけよ 佐保川の たえゆくすゑの みくづなりとも
あるも憂く なきも悲しき 世の中を いかさまにかは 思ひさだめむ
そのかみの ちぎりをしのに 頼みても 袖に涙や なぬか干ざらむ
あはれとも ひとこそしらね ひとしれぬ 心の内は 神のまにまに