和歌と俳句

鴨長明

袖に散る 露うち払ひ あはれ我が 知らぬ恋路を ふみそめるかな

しのぶれば ねにこそ立てね さを鹿の いるのの露の 消ぬべきものを

待てしばし もらしそめても 身の程を 知るやと問はば いかが答へむ

憂き身には たえぬ思ひに おもなれて ものや思ふと とふ人もなし

何せむに おぼつかなさを 嘆きけむ 思ひ絶えねと かきけるものを

越えかねし 逢坂山を あはれ今朝 かへるをとむる 関守もがな

うち払ひ 人かよひけり 浅茅原 ねたしや今宵 露の零れぬ

おのづから 違はぬ夜半も ありやとて ぬしなきやどに 通ひなれぬる

われはただ 来むよの闇も さもあらばあれ 君だにおなじ 道に迷はば

よそにのみ ならふる袖の ぬるばかり 涙よとこの うらつたひせよ

頼めつつ 妹を待つ間に 月影を 惜しまで山の 端にぞかけつる

神かけて たのければよし こころみむ さても辛くは 人のためかは

うつつには しばしぞ袖をも ひきとめて さむる別れぞ 慕ふ方なき

なかにまた 人をばふせし 神垣や ならぶかたなき まろねなりとも

しるしあれば 出づなるものを 逢ふとみる いもひの床の 起き憂きやなぞ

思ひ出でて しのぶ涙や そひぬらむ 色にたまゐる 山の井の水

朝露に 小萩わけても ならびにき 雫も色も それはものかは

うらみぬる 辛さも身にぞ かへりぬる 君に心を かへて思へど

恋ひしさの ゆくかたもなき 大空に まだ満つものは うらみなりけり

消えかへり おさへてむせぶ 袖の内に 思ひのこせる 言の葉ぞ無き