来る人も かれがれなれや をみなへし 秋果て行くは おのれのみかは
霜うづむ 真葛が下は うら枯れて さびしかるねに 牡鹿なくなり
秋したふ 虫のこゑこそ よわるなれ とまらぬものと 誰かをしへし
山の端にに 離れて消ゆる 薄雲は 嵐のおくる 時雨なりけり
音するも 寂しきものと まきの板に 思ひ知るる 初時雨かな
やまおろしに 散るもみぢ葉や 積もるらむ 谷の筧の 音よわるなり
明日も来む となせいはなみ 風吹けば 花に紅葉を 添へて折りけり
夕暮れは 星かと見ゆる 花もなし みなむらさきの 雲隠れつつ
杉の板を かりにうち葺く ねやの上に たぢろぐばかり 霰ふるなり
霰ふる あしのまろやの 板庇 ねざめもよほす つまにぞありける
小夜更けて 千鳥つまよぶ 松風に こぬみの浜や さびしかるらむ
ねざめする なみのまくらに なく千鳥 おのがねにさへ 袖濡らせとや>
うすこほり つばさにかけし 鳰鳥の いくよつもりて ひまもとむらむ
みくさゐる みぎはをかづく 鴨鳥は 上毛さへこそ 高ネりけれ
月影の かたぶく磯に ゐる鴨は 片羽に残る 霜かとやみる
曇りゆく 月をば知らで おく霜ぞ 払ひえたりと 鴛鴦ぞ鳴くなる
かたをかの 楢の枯葉も 散り果てて 枝にとまらぬ 月のしらゆふ
いつはりを わきて咎むる しめの内ぞ 昼とな見えそ 冬の夜の月
霜はらふ 羽音にのみぞ 鳰鳥の あしまの床は 人に知らるる
惜しめども 過ぎ行年の いかにまた 思ひかへりて 身にとまるらむ