春日山嶺のあさ日の春の色にたにのうぐひすいまやいづらし
櫻麻のをふのうらかぜ春吹けば霞を分くる波の初花
われぞあらぬ鶯さそふ花の香は今もむかしのはるのあけぼの
雲路行く雁の羽風も匂ふらむうめ咲くやまのありあけのそら
あさ緑玉ぬきみだる青柳のえだもとををに春雨ぞ降る
あらたまの年にまれなる人待てど櫻にかこつ春もすくなし
頼むべき花のあるじも道たえぬさらにや訪はむ春の山ざと
みよし野やたぎつ川うちの春の風神代もきかぬ花ぞみなぎる
いくかへり彌生の空を恨むらむ谷には春の身をわすれつつ
色に出でてうつろふ春をとまれともえやはいぶきの山吹の花
おのづからみるめの浦に立つけぶり風をしるべの道もはかなし
草の原露をぞ袖にやどしつる明けてかげ見ぬ月のゆくへに
なく涙やしほのころもそれながら馴れずばなにの色かしのばむ
秋の色にさてもかれなで蘆邊こぐ棚なしをぶね我ぞつれなき
契りおきし末の原野のもとがしはそれともしらじよその霜枯れ
跡たれてちかひを仰ぐ神もみな身のことわりに頼みかねつつ
ひさかたの雲のかけはしいくよまで一人なげきの朽ちてやみぬる
おもふこと空しき夢のなか空に絶ゆとも絶ゆな辛き玉の緒
日影さすおとめの姿われも見き老いずば今日の千世のはじめに
ふして思ひおきてぞ祈る長閑なれよろづよてらせ雲の上の月