谷の松おのが千歳に春やなき深きみどりの知らぬひとしほ
夏山の松のけぶりに出づる雲の五月雨ながらはるるまもなし
秋の色にみねのあらしのかはるより夢路ゆるさぬ松の聲かな
のこりなくわが黒髪はうづもれぬ霜の後にも松は見えけり
あさみどり木の芽春さめふりみだり薄き霞の衣手の杜
こととはむ聲もをしまぬほととぎす何か浮田の杜の夜毎に
なれなれて下葉のこさずおく露にあはでの杜の秋や悔しき
鳴く鹿もよそのもみぢも尋ね来ずときはの杜の雪の夕ぐれ
春日野の雪のしたくさおのれのみ春の外にやむすびおくらむ
名も分かず岩がき沼にひきすてて五月まつべき草葉ならねば
時しらぬ宿ともさらばなり果てずなに夕ぐれの荻のうはかぜ
わが宿は人目もくさもくさはなほ枯れても立てる心ながさに
花は春春はさくらのゆゑならでこの世の色のたぐひやはある
ふる里のはなたちばなの白妙にむかしのそでは今にほひつつ
白露をもとあらの萩にぬきとめて風たえぬまの月をこそ待て
ふゆごもり年のうちにはさきながら垣根の外に匂ふうめが枝
君が世に萬代めぐれ少女子が連なる庭の十六夜の月
諸人の千年のぶてふみそぎ川ながすあさぢのすゑもはるかに
長月やおいせぬ菊の下水にたまきはる夜はよその白露
あきらけき御代の千歳を祈るとて雲の上人ほしうたふなり