和歌と俳句

紀友則

みるもなく めもなき海の 島にいでて かへすがへすも うらみつるかな

後撰集・恋
みるもなく めもなき海の 磯にいでて かへるがへるも 怨みつるかな

わが心 いつにならひて 見ぬ人の おもひやりつつ 恋ひしかるらむ

後撰集・恋
わが心 いつならひてか 見ぬ人を 思ひやりつつ 恋ひしかるらむ

古今集・恋
わがやどの 菊の垣根に おく霜の きえかへりてぞ 恋しかりける

おもひても はかなきものは 吹く風の 音にもきかぬ 恋にぞありける

古今集・恋
秋風は 身をわけてしも 吹かなくに 人の心の そらになるらむ

古今集・恋
笹の葉に おく霜よりも ひとりぬる 我が衣手ぞ さえまさりける

古今集・恋
河の瀬に なびく玉藻の みがくれて 人に知られぬ 恋もするかな

よひよひに おきてわかるる からごろも かけておもはぬ ときのまぞなき

古今集・恋
よひよひに ぬぎて我がぬる 狩衣 かけて思はぬ 時のまもなし

古今集・恋
東路の さやのなか山 なかなかに なにしか人を 思ひそめけむ

しきたへの 枕の下は 海なれど ひとをみるめは 生ひずぞありける

古今集・恋
しきたへの 枕の下に 海はあれど 人をみるめは 生ひずぞありける

年をへて 消えぬ思ひは ありながら 冬の袂は なほこほりけり

古今集・恋
年をへて 消えぬ思ひは ありながら 夜の袂は なほこほりけり

古今集・恋
言にいでて いはぬばかりぞ みなせ川 したにかよひて 恋しきものを

命かは 何ぞも露の あだものを あふにしかへば 惜しからぬ身を

古今集・恋
命やは 何ぞは露の あだものを あふにしかへば 惜しからなくに

をちかへり 思ひいづれば そのかみの ふりにしことは 忘れざりけり