夕立のなごりの露にそめすてし苔のみどりにくるるやまかな
あらし吹く松の葉かげの庵どち夏やは知らぬ心こそすめ
吹きおくれ窓のきたかぜ秋かけて君がみけしの身にやしまぬと
空蝉のゆふべの聲はそめかねつまだ青葉なる木々のしたかげ
宿からに蝉のはごろも秋や立つ風のたまくら月のさむしろ
夜の雨のこゑ吹き残す松風にあさけの袖はきのふにも似ず
はし鷹をたならすころの風たちて秋のあふぎに遠ざかり行く
さくら花山ほととぎすゆきはあれど思ひを限る秋は来にけり
長月を待つよりながき秋の夜の明くるも知らず衣打つこゑ
鳥の音を年もふばかり待ちし夜の鳴きてもながき暁のそら
ゆふぐれはものおもひまさるきりぎりす身をかへて鳴く空蝉のこゑ
わがしたふ人はとひこず窓ごしに月さし入りて秋風ぞ吹く
たれもさや心の色の変はるらむ岡のあさぢに夕日さすころ
しぐれ行く雲のこずゑの山の端に夕べたのむる月もとまらず
山をこそ露もしぐれもまだそめぬ空の色ある秋の水かな
まきのやに隣の霜は白妙のゆふつけ鳥をいつか聞くべき
藤袴あらしの砕くむらさきにまた白菊の色やならはむ
こけむしろ紅葉ふきしく夕しぐれ心もたへぬ長月のくれ
聲ばかり木の葉の雨はふるさとの庭も籬も月のはつしも
下草のしぐれもそめぬ枯葉まで霜こそ秋の色は残さね