この里は冬おくしものかるければ草のわかばぞはるの色なる
山水にさえ行く月のますかがみこほらずとても流るとも見ず
初雪のまどのくれたけふしながら重るうは葉のほどぞ聞ゆる
あかつきはかげよはりゆく燈火に長きおもひぞ一人きえせぬ
咲く花のいまはの霜におきとめて残るまがきのしらぎくの色
風の上に星のひかりはさえながらわざともふらぬ霰をぞ聞く
里とほきそののむら竹ふかき夜の雪のくもまを渡るかりがね
清見潟あけなむとする年なみのせきどの外に春や待つらむ
いたづらに日数ふりつむ山の雪あかしくらさば春のあけぼの
年ふれば我が黒髪もしら糸のよるはほとけの名をとなへつつ
荒れ果てぬ拂はじ袖のうき身のみあはれいくよの床の浦風
暮ると明くと胸のあたりも燃え尽きぬ夕べの蛍夜半のともしび
浅茅生ややどる涙のくれなゐにおのれもあらぬ月のいろかな
こひて啼く旅寝の山の夜の雨におもひぞまさる暁のこゑ
床の上にふるき枕も朽ちはてて通はぬ夢ぞ遠ざかり行く
知るや月やどしめそむる老いらくのわが山の端のかげや幾夜と
明けくらす人の習ひをよそに見て過ぐる日數も急ぎやはする
静かなる山路のいほの雨の夜に昔こひしき身のみふりつつ
あらしおく田面のはぐさしげりつつ世の営みのほかにすみつつ
秋山のいはほの枕たづねても許さぬ雲ぞ旅ごこちする