和歌と俳句

藤原定家

早卒露瞻百首

こもり江の蘆のしたばの浮き沈み散りうせぬ世のあぢきなの身や

淡路島千鳥とわたる聲ごとにいふかひもなくものぞ悲しき

とけぬうへに重ねてこほる谷水にさゆる夜ごろの數ぞ見えける

はねかはすをしのうはげの霜ふかく消えぬ契りを見るぞかなしき

いかがする網代に氷魚の寄る夜は風さへはやき宇治の川瀬

たちかへる山あゐの袖にさえてあかつきふかきあさくらのこゑ

かり衣はらふ袂のおもるまでかた野の原にはふりきぬ

すみがまのあたりをぬるみ立ちのぼる煙や春はまづかすむらむ

明方の灰のしたなる埋火の残りすくなく暮るる年かな

年くれぬ変はらぬけふの空ごとにうきを重ぬる心地のみして

これもまた契りなるらむとばかりに思ひそめつる身を惜しむかな

思ひねの夢にもいたく馴れぬればしのびもあへずものぞ悲しき

名取河いかにせむともまだしらず思へば人を恨みつるかな

あひ見てもいへば悲しき契りかなうつつもおなじ春の夜の夢

別れつる程もなくなくまどはれて頼めぬ春をなほ急ぐかな

つらからずわが心にも知られにき馴れても馴れぬ歎きせむとは

たれゆゑとささぬ旅寝のいほりだに都のかたは眺めしものを

さきだたば人もあはれのかけて見よ思ひに消えむそらのうき雲

よしさらばあはれなかけそ忍び侘び身をこそ捨てめ君が名は惜し

身をしれば恨みじと思ふ世の中をありふるままの心よわさよ