こもり江の蘆のしたばの浮き沈み散りうせぬ世のあぢきなの身や
淡路島千鳥とわたる聲ごとにいふかひもなくものぞ悲しき
とけぬうへに重ねてこほる谷水にさゆる夜ごろの數ぞ見えける
はねかはすをしのうはげの霜ふかく消えぬ契りを見るぞかなしき
いかがする網代に氷魚の寄る夜は風さへはやき宇治の川瀬を
たちかへる山あゐの袖に霜さえてあかつきふかきあさくらのこゑ
かり衣はらふ袂のおもるまでかた野の原に雪はふりきぬ
すみがまのあたりをぬるみ立ちのぼる煙や春はまづかすむらむ
明方の灰のしたなる埋火の残りすくなく暮るる年かな
年くれぬ変はらぬけふの空ごとにうきを重ぬる心地のみして
これもまた契りなるらむとばかりに思ひそめつる身を惜しむかな
思ひねの夢にもいたく馴れぬればしのびもあへずものぞ悲しき
名取河いかにせむともまだしらず思へば人を恨みつるかな
あひ見てもいへば悲しき契りかなうつつもおなじ春の夜の夢
別れつる程もなくなくまどはれて頼めぬ春をなほ急ぐかな
つらからずわが心にも知られにき馴れても馴れぬ歎きせむとは
たれゆゑとささぬ旅寝のいほりだに都のかたは眺めしものを
さきだたば人もあはれのかけて見よ思ひに消えむそらのうき雲
よしさらばあはれなかけそ忍び侘び身をこそ捨てめ君が名は惜し
身をしれば恨みじと思ふ世の中をありふるままの心よわさよ