國上山松風凉し越え来れば山時鳥をちこちに鳴く
國上山しげる梢の恋しとて鳴きて越ゆらん山時鳥
世の中をうしともへばか時鳥木がくれてのみ鳴きわたるなり
夏山をわがこえ来れば時鳥こぬれたちくき鳴き羽ぶく見ゆ
み山べを辿りつつ来し時鳥木の間立ちくき鳴きはふる見ゆ
ひさがたの雨にぬれつつ時鳥鳴く聲聞けば昔おもほゆ
ひとりぬる旅寝のゆかのあかときに帰れとや鳴く山時鳥
夏衣たちて著ぬれどみ山べはいまだ春かもうぐひすの鳴く
時鳥空ゆく聲のなつかしみ寐さへうかれて昔思はる
ほととぎす我がすむ宿は多かれど今宵の蛙まづめづらしも
早苗ひく乙女を見ればいその上古りぬし御代の思ほゆるかも
手もたゆく植うる山田の乙女子がうたの聲さへややあはれなり
この頃はさ苗とるらし我が庵は形を繪にかき手向けこそすれ
苗々と我が呼ぶ聲は山越えて谷のすそこえ越後たうゑのうた
ひさがたの雨もふらなんあいびきの山田の苗のかくるるまでに
あしびきの山田のをぢがひねもすにいゆきかへらひ水運ぶ見ゆ
我れさへも心もとなし小山田の山田の苗のしをるる見れば
五月雨の晴れ間に出でてながむれば青田凉しく風わたるなり
さ月の雨まなくし降ればたまぼこの道もなきまで千草はひにけり
五月雨の雲間をわけて我が来れば経よむ鳥と人はいふらん
さ苗とる山田の小田の乙女子がうちあぐるうたのこゑのはるけさ
卯の花の咲きのさかりは野積山雲をわけ行く心地こそすれ
山かげの垣ねに咲ける卯の花は雪かとのみぞあやまたれける