しきたへの枕にのみぞ知られけるまだしののめの秋のはつ風
秋きぬとたが言の葉かつけそめし思ひたつたの山のしたつゆ
あはれまたけふもくれぬと眺めする雲のはたてに秋風ぞ吹く
里はあれて時ぞともなき庭の面に本あらの小萩秋は見えけり
秋風に侘びてたまちる袖のうへを我とひがほにやどる月かな
年ふれば涙のいたくつもりつつ月さへすつる心地こそすれ
今よりは我月影と契りおかむ野原のいほの行く末の秋
誰も聞くさぞなならひの秋の夜とひてもかなしさを鹿の声
秋風にそよぐ田の面のいねがてにまつあけがたの初雁のこゑ
露さえて寝ぬ夜の月やつもるらむあらぬ浅茅の今朝の色かな
ひとりきくむなしきはしに雨おちてわがこし道を木枯
年毎のつらさと思へどうとまれぬただ今日あすの秋の夕ぐれ
けふそへに冬の風とは思へどもたえずこきおろす四方の木の葉か
霜うづむ小野の篠原しのぶとてしばしもおかぬ秋のかたみを
神無月うちぬる夢もうつつにも木の葉時雨とみちは絶えつつ
蘆鴨のよるべのみぎはつらら居てうきねを移す沖の月かげ
玉鉾のみちしろたへにふる雪をみがきて出づる朝日かげかな
そなれ松梢くだくる雪折れにいは打ちやまぬ波のさびしさ
あらたまの年の幾とせ暮れぬらむ思ふおもひの面がはりせで