和歌と俳句

西行

たちかはる春を知れとも見せがほに年を隔つる霞なりけり

岩間とぢし氷もいまはとけそめて苔のしたみづ道もとむなり

色つつむ野邊の霞の下もえぎ心をそむる鶯の聲

尋め来かし梅盛りなる我が宿を疎きも人はおりにこそよれ

山がつの片岡かけてしむる野の境に立てる玉の小柳

降りつみし高嶺のみ雪とけにけり清滝河の水の白波

つくづくと物思ひをればほととぎす心にあまる聲きこゆなり

憂き世思ふ我かはあやな郭公あはれこもれるしのびねの聲

鶯の古巣より立つほととぎす藍よりも濃き聲の色かな

きかずともここをせにせむほととぎす山田の原の杉の群立ち

ほととぎす深き峰より出にけり外山の裾に聲のおちくる

五月雨の晴れ間も見えぬ雲路より山ほととぎす鳴きて過ぐなり

あはれいかに草葉の露のこぼるらん秋風立ちぬ宮木野の原

七夕のけさの別れの涙をばしぼりやかぬる天の羽衣

おほかたの露には何のなるならん袂に置くは涙なりけり

心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ澤の秋の夕暮

あしびきの山陰なればと思ふまに木末に告ぐるひぐらしの聲

山里の月待つ秋の夕ぐれは門田の風の音のみぞする

長月の月の光の影ふけて裾野の原に牡鹿なくなり

月見ばとちぎりおきてしふるさとの人もや今宵袖濡らすらん