和歌と俳句

西行

あかつきのあらしにたぐふ鐘の音を心の底にこたへてぞきく

夜もすがら鳥の音思ふ袖の上に雪はつもらで雨しをれけり

花咲きし鶴の林のそのかみを吉野の山の雲み見るかな

風かをる花の林に春暮れてつもるつとめや雪の山道

鷲の山おもひやるこそ遠けれど心にすむぞ有明の月

新勅撰集・雑歌
あらはさぬわが心をぞ恨むべき月やはうとき姨捨の山

若葉さす平野の松はさらにまた枝に八千世の數を添ふらん

澤邊より巣立ちはじむる鶴の子は松の枝にや移りそむらん

曇りなき鏡の上にゐる塵を目に立てて見る世には思はばや

新勅撰集・雑歌
頼もしな君きみにます折に遇ひて心の色を筆にそめつる

深くいりて神路の奥を尋ぬればまた上もなき峰の松風

ながれたえぬ波にや世をば治むらん神風すずし御裳濯の岸

藤波も御裳濯川の末なればしづ枝もかけよ松の百枝に

契おきし契のうへに添へおかん和歌の浦路の海人の藻塩木

この道の悟りがたきを思ふにもはちすひらけばまづ尋ね見よ

和歌の浦に塩木かさぬる契をばかける玉藻の跡にてぞ見る

悟りえて心の花し開けなば尋ねぬさきに色ぞ染むべき