和歌と俳句

藤原定家

韻歌百二十八首

はるの草の又夏草にかはるまで今とちぎりし日こそ遅けれ

見ることに猶めづらしきかざしかな神世かけたるけふの

夏山の河上きよき水の色のひとつに青き野邊のみち芝

春もいぬ花もふりにし人ににて又見ぬ宿にまつぞ遺れる

夕まぐれ寝にゆくからすうちむれていづれの山のみねに飛らん

夏の夜はげにこそあかね山の井のしづくにむすぶ月の暉も

しののめの夕つげ鳥のなくこゑにはじめてうすき蝉の羽衣

いは井くむ松にまたるる秋風にまくずうらみはわれも帰らん

ゆきなやむ牛のあゆみにたつちりの風さへあつき夏の小車

たちのぼる南のはてに雲はあれどてる日くまなきころのおほそら

夏の夜は月ぞけぢかき風すずむふせやの軒のまやの余に

大井河夏ごとにさすかりやかたいくとせか見るくだす桴を

やまかげは結ばぬ袖も風ぞ吹く岩せく水に落つるしらたま

あとふかきわがたつそまにすぎふりてながめすずしきにほの湖

折しもあれ雲のいづくに入る月の空さへをしきしののめのみち

池水にすゑうちさわぐ浮草はまづ夕風のふきや初めぬる