和歌と俳句

雛祭

尼公の遺愛の雛を飾り雛 誓子

雛の夜勉学椅子に脚を垂り 悌二郎

足袋のままけふ眠るなり雛祭 不死男

本屏風人形屏風雛飾る 立子

雛の夜や艀もその灯さし交し 林火

夜は熱の無ければ起きて雛あられ 波郷

天照らす雛の宴と灯りたり 青畝

調度みな掌上のもの雛飾る 爽雨

目を下げて文人の像雛節句 静塔

柿色に柿の木焚きて雛まつり 静塔

目鼻なき紙の雛の目鼻だち 風生

古雛は着ぶくれたまふ佳かりけり 秋櫻子

立雛は夜の真闇にも立ちつづく 秋櫻子

雛舟や手向けのごとく桃一枝 林火

雛流るあをさの礁をひとつ越え 林火

老いらくのはるばる流し雛に逢ふ 林火

筑波嶺も仕ひたくなる雛納 静塔

みちのくに遠き都の雛の顔 青畝

包みつつ応ふる御手も雛納め 爽雨

老ふたり病むを見たまふ雛のあり 秋櫻子

男雛より女雛宝冠だけ高し 誓子

内裏雛眼はいづこまで達します 誓子

雛段に炊きたての飯奉る 誓子

跫音のいづくへ去りし雛納め 不死男

浪まくらゆれて絵雛に津あらず 静塔

雲の上と曾ては言ひし雛の顔 青畝

男雛の黛点と点離る 誓子

内裏雛砂糖の鯛を召し給ふ 誓子

金屏に金の照るのみ内裏雛 誓子

雛菓子の金平糖の今むかし 風生

白魚の指古雛の肌つづき 静塔

伊豆の宿波音に雛揺れ給ふ 林火