和歌と俳句

阿波野青畝

不勝簪

寄鍋や矛を向けたる蟹の爪

てつちりの茄子は紺を盗まれし

明け暮れとなしの炉明り鮭の顔

足と嘴はなしたる鶴凍てにけり

の原中仙道の家灯る

姉川のせせらぎ暗し雪を待つ

鮭の身の緋を雪国の誇とし

水仙花切字あるごと匂ひけり

おとがひに糀の花や寒造

一本の破魔矢余生を護るべし

輪飾のゆがみし海士の門を過ぐ

藪入やくらがり峠降り来しと

瑠璃と紺淵異にせし雪間かな

雲の上と曾ては言ひしの顔

神の名の豊玉村は和布干す

寺の鐘雨の田螺にひびきけり

美しく打つてある田や京も北

追分の辻となるまで烏賊を干す

対馬海女鮑の宝庫守りて住む

大岩屋ぞろぞろと出る遍路かな

土不踏むくれそめたる遍路かな

姉被尼もしてをる島四国

島の漁網うち懸けたるごとし

駈けてゆく駿馬に似たる卯浪あり

船越はしづかなる江や吹流し