寄鍋や矛を向けたる蟹の爪
てつちりの茄子は紺を盗まれし
明け暮れとなしの炉明り鮭の顔
足と嘴はなしたる鶴凍てにけり
雪の原中仙道の家灯る
姉川のせせらぎ暗し雪を待つ
鮭の身の緋を雪国の誇とし
水仙花切字あるごと匂ひけり
おとがひに糀の花や寒造
一本の破魔矢余生を護るべし
輪飾のゆがみし海士の門を過ぐ
藪入やくらがり峠降り来しと
瑠璃と紺淵異にせし雪間かな
雲の上と曾ては言ひし雛の顔
神の名の豊玉村は和布干す
寺の鐘雨の田螺にひびきけり
美しく打つてある田や京も北
追分の辻となるまで烏賊を干す
対馬海女鮑の宝庫守りて住む
大岩屋ぞろぞろと出る遍路かな
土不踏むくれそめたる遍路かな
姉被尼もしてをる島四国
島の藤漁網うち懸けたるごとし
駈けてゆく駿馬に似たる卯浪あり
船越はしづかなる江や吹流し