和歌と俳句

阿波野青畝

不勝簪

星よりも噴煙重し去年今年

双六の一がよく憑く不思議かな

雪崩して谷川岳はなほ拒む

雪間より谷川岳のひびきけり

奉る和布鄙びぬ人麻呂忌

啓蟄のみみず日光浴を忌む

伊勢参輪中のみちを拾ひけり

殻とみて通る安積田螺かな

麦青し貨物のみなる汽車の音

牧雀子持になつて鳴きにけり

きのふけふ濁世さながら黄沙かな

高野より西方に開きけり

毒ならば美しくあれ芥子を見る

夏至愉し牛と羊は野にあそぶ

寺の塔宙を劈く白夜かな

旅空に星くづまなき白夜かな

チボリの灯白夜の悔を説く勿れ

烏瓜翁のごとく咲きにけり

噴水に人生縮図まのあたり

氷河よりたどりたどりて飛瀑あり

鎮魂のあけくれ麦茶のみにけり

還来の宮につくつくぼうしかな

こほろぎや風に鍛へし声はずみ

満月に繽紛と翔ぶ出水鶴

子規忌より帰りは月をまともにす