和歌と俳句

阿波野青畝

不勝簪

九頭龍の石よりやさし山の薯

端近う秋の暮待つ観世音

戸隠の裾野まばらに蕎麦うつ灯

馬返しとは錦なす山のみち

一発の冬雷高し櫻島

麦を蒔く田人にやさし観世音

ツンドラに生きつづけをる枯木かな

白菜の一枚づつの白さの差

火山灰除に薩摩をとめの頬被

着膨れの破れて波止の老詩人

の音警策の音永平寺

土不踏粉雪踏めり永平寺

五尺踏むすべ知らず平泉寺

彩色の観音雪を待ち給ふ

ふぶけども承陽殿はもの静

九頭竜を馳しる竜巻ふぶきけり

夢の中母の声あり老の春

福寿草襖いろはにほへとちり

寝正月世に処する道練りにけり

湯の薬師吹きさらさるる雪解かな

冴返る浪音強し由比ヶ浜

妙法蓮華経と谺山笑ふ

霽れしぶる吉野の雨の田螺かな

黄塵をものかは鶴の帰り去る

丹生川の曲る暗さや春の月

借りて読む伊勢物語の中

仔馬跳んで雀斑乙女に甘えたり