和歌と俳句

藤原定家

内裏百首

笛竹のふしみの里は名のみしていづれの世にか音をも立つべき

春がすみかすみの浦を行く舟のよそにも見えぬ人をこひつつ

神なびのいはせの杜のいはずとも知れかし下に積るくち葉を

あしほ山やまず心はつくはねのそがひにだにもみらくなき頃

袖の浦たまらぬ玉のくだけつつよせてもとほくかへる波かな

人ごころいとどます田の池水にうへはしげれる名を恨みつつ

あだ波のたかしの浜のそなれ松なれずばかけて吾恋ひめやも

かた糸のあだの玉の緒よりかけてあはでの杜に露きえねとや

秋風に鳴く音をたつるしかすがのわたりし波におとる袖かは

あづま路やはまなの橋にひく駒もさぞ待ちわたる逢坂のせき

梓弓いそまのうらにひく網のめにかけながらあはぬこひかな

夜もすがら夢さへ人目もる山はうちぬる中をたのみやはする

ことづてよ佐野の舟橋はるかなるよその思ひにこがれ渡ると

いかにせむあさかの沼におふときく草葉につけて落つる涙を

ふくる夜をこころひとつに恨みつつ人まつ島のあまの藻鹽火

琴の音もなげきくははる契りとて緒絶の橋に中も絶えにき

時のまの夜半のころもの浜ゆふやなげきそふべきみ熊野の浦

よそ人に鳴海の浦の八重がすみ忘れずとてもへだて果ててき

ふたみがたいせの浜荻しきたへの衣手かれてゆめもむすばず

名取川こころにくたす埋木のことわりしらぬそでのしがらみ