笛竹のふしみの里は名のみしていづれの世にか音をも立つべき
春がすみかすみの浦を行く舟のよそにも見えぬ人をこひつつ
神なびのいはせの杜のいはずとも知れかし下に積るくち葉を
あしほ山やまず心はつくはねのそがひにだにもみらくなき頃
袖の浦たまらぬ玉のくだけつつよせてもとほくかへる波かな
人ごころいとどます田の池水にうへはしげれる名を恨みつつ
あだ波のたかしの浜のそなれ松なれずばかけて吾恋ひめやも
かた糸のあだの玉の緒よりかけてあはでの杜に露きえねとや
秋風に鳴く音をたつるしかすがのわたりし波におとる袖かは
あづま路やはまなの橋にひく駒もさぞ待ちわたる逢坂のせき
梓弓いそまのうらにひく網のめにかけながらあはぬこひかな
夜もすがら夢さへ人目もる山はうちぬる中をたのみやはする
ことづてよ佐野の舟橋はるかなるよその思ひにこがれ渡ると
いかにせむあさかの沼におふときく草葉につけて落つる涙を
ふくる夜をこころひとつに恨みつつ人まつ島のあまの藻鹽火
琴の音もなげきくははる契りとて緒絶の橋に中も絶えにき
時のまの夜半のころもの浜ゆふやなげきそふべきみ熊野の浦
よそ人に鳴海の浦の八重がすみ忘れずとてもへだて果ててき
ふたみがたいせの浜荻しきたへの衣手かれてゆめもむすばず
名取川こころにくたす埋木のことわりしらぬそでのしがらみ