この里や 嵯峨の御狩の 跡ならん 野山もはては あせ変りけり
庭の岩に 目立つる人も なからまし かど有るさまに 立し置がずは
流れ見し 岸の木立も あせはてて 松のみこそは 昔なるらめ
瀬を早み 宮滝川を 渡りゆけば 心の底の 澄む心地する
思ひ出て 誰かはとめて 分けも来ん 入る山道の 露の深さを
呉竹の 今いくよかは 起き臥して 庵の窓を 上げ下すべき
その筋に 入りなば心 何しかも 人目思ひて 世に包むらん
緑なる 松に重なる 白雪は 柳の衣を 山におほへる
盛りならぬ 木もなく花の 咲きにけると 思へば雪を わくる山道
波と見ゆる 雪を分けてぞ 漕ぎ渡る 木曾の懸橋 底も見えねば
真鶴は 沢の氷の 鏡にて 千歳の影を もてやなすらん
沢も解けず 摘めど筐に とどまらで 目にもたまらぬ ゑぐの草茎
君が住む 岸の岩より 出づる水の 絶えぬ末をぞ 人も汲みける
田代見ゆる 池の堤の かさ添へて 湛ふる水や 春の世のため
庭に流す 清水の末を 堰き止めて 門田養ふ ころにもあるかな
伏見過ぎぬ 岡屋になほ とどまらじ 日野まで行きて 駒心見ん
秋の色は 風ぞ野もせに 敷きわたす しぐれは音を 袂にぞ聞く
しぐれそむる 花園山に 秋暮て 錦の色を あらたむるかな