和歌と俳句

西行

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小鯛曳く 網のうけ縄 寄り来めり 憂きしわざある 潮崎の浦

霞しく 波の初花 折りかけて 桜鯛釣る 沖の海人舟

海士人の いそしく帰る ひじき物は 小螺蛤 寄居虫しただみ

磯菜摘まん 今生ひ初むる 若布海苔 海松布ぎばさ ひじき心太

菅島や 答志の小石 分け変へて 黒石混ぜよ 浦の浜風

さきしまの 小石の白を 高波の 答志の浜に 打寄せてける

香良洲崎の 浜の小石と 思ふかな 白も混らぬ 菅島の黒

合はせばや 鷺と烏と 碁を打たば 答志菅島 黒白の浜

今ぞ知る 二見の浦の 蛤を 貝合とて おもふなりけり

阿古屋採る 貽貝の殻を 積みおきて 宝の跡を 見するなりけり

伊良胡崎に 鰹釣り舟 並び浮きて はがちの波に 浮かびつつぞ寄る

巣鷹渡る 伊良胡が埼を 疑ひて なほ木に帰る 山帰りかな

はし鷹の すずろかさでも ふるさせて 据ゑたる人の 有難の世や

宇治川の 早瀬落ち舞ふ 漁舟の かづきに違ふ 鯉のむらまけ

小鮠集ふ 沼の入江の 藻の下は 人漬けおかぬ 柴にぞありける

種漬くる 壺井の水の 引く末に 江鮒集まる 落合のわだ

白縄に 小鮎引かれて 下る瀬に もちまうけたる 小目の敷網

見るも憂きは 鵜縄に逃ぐる いろくづを 逃らかさでも したむ持網

秋風に 鱸釣り舟 走るめり 其一箸の なごり慕ひて

年経たる 浦の海士人 言問はん 波を潜きて 幾世過にき

黒髪は 過ぐると見えし 白波を 潜きはてたる 身には知れ海人