和歌と俳句

俊惠法師

枝ごとに うつろひ鳴くは うぐひすの 花のねぐらや 住み憂かるらむ

なきていぬる 妹や折りつる 梅の花 咎めかほなる うぐひすのこゑ

雪をおもみ うぐひすいたく 鳴くなるは 払ひも敢へぬ 梅のはなかさ

吹く風に 梅のあたりを 知りぬれば 散らすもえこそ うらみざりけり

梅の花 色はとなりの ものながら 香はあるじをも 定めざりけり

わぎもこが 袖や触れつる 梅の花 あやしき程の 香に匂ふらむ

わがせこは たをりてもみよ 梅の花 それや咎むる 袖の香ならぬ

袖は濡れ 香はうつるとも 梅の花 おもてなき名を たたむとぞ思ふ

雪の色を さこそ奪はめ 梅の花 妹が香をさへ ぬすむべしやは

闇なれど しるくはあるを 梅の花 色をも見よと 照らす月影

梅の花 散りかふときは めにみえぬ 風にも春は いろかやはなき

過ぎがてに しづ枝を折れば 梅の花 あやなこずゑの 露に濡れぬる

春風は ややも吹かなむ 梅の花 散らぬものから 匂ふばかりに

神がきの たよりにたてる 梅の花 うぐひすぞ来て 禰宜とさだむる

うぐひすや 木ごとに来つつ ぬひつらむ かさとも咲ける 梅の花かな

しのびつま 来るかと思ふ 吹く風に 枝もならさぬ 梅の匂ひは

梅が香ぞ ねざめのとこに かをるなる 今うぐひすや 枝移りする

しるしらぬ 人まねきけり 春はなほ 梅の立枝ぞ あるじなりける

松もひき 若菜もとりつ 今はまた 思ひたちなむ 志賀の山越え

ふるさとの かはらの松は ときはにて そともの柳 春めきにけり