待ち得たる 花たち隠す 霞こそ 月見る夜半の 雲にはありけれ
花をこそ はやも咲けとは 待たれつつ 風もそへとは いつか思ひし
吹く風を 厭ひ厭ひて さくら花 はては手ごとに 折りて帰りぬ
さのみやは 朝ゐる雲の 晴れざらむ をのへの桜 さかりなるらし
吉野山 深くいるとも 春の内は 桜が枝を しをりにはせじ
咲き満てる 花のおもかげ なかりせば 春のねざめや 寂しからまし
とことはに いつともわかぬ 風なれど 春は花ゆゑ 吹くかとぞみる
新古今集・春
ながむべき 残の春を かぞふれば 花とともにも 散るなみだかな
きみ来ずと うらみの色を ふくみてぞ 花も我が身も ねにかへりにし
暮れぬとて 折りな尽しそ さくら花 月にも人の たづねやは来ぬ
白河の 花も我をば 思ひ出でよ いづれの年の 春か見ざりし
花のみや 思ひ出づべき 年を経て 我も君には なれにしものを
ふるさとの 花の色さへ かはりせば 何に昔を 思ひ出でまし
山桜 咲けるさかりは 峰ごとに 落ちけるものを 布引の滝
月影の 朧なりせば わきて思ふ 心や花の かたに過ぎまし
花よりも 月をぞ今宵 惜しむべき 入りなばいかが 散るをだに見む
葛城や 高間のさくら 咲きしより 春は晴れせぬ 峰の白雲
雲かかる 高嶺のさくら 咲きぬれば ゐせきを越ゆる あまの川舟
惜しみつつ 折らで来つれば あぢきなし 風にまかすと 花や散るらむ
しばしだに 花を花とや 見せざらむ 月には雲を 払ふ嵐野