和歌と俳句

俊惠法師

信濃路や みさかをのぼる 旅人は を越ゆる ものにぞありける

旅人や 瀬田の長橋 辿るらむ ひきわたしても 見ゆる霞か

あまさかる 鄙のなかぢを はるばると 絶え間も見せぬ 夕霞かな

春霞 あへの市路を こめつれば 姿を声に かへてけるかな

朝ぼらけ 木曽路の橋を 見渡せば 霞もはやく かけてけるかな

なにとこは 音羽の山の 夕霞 ひとめばかりの せき固むらむ

うぐひすの なきて木つたふ 梅が枝に 零るる露や 涙なるらむ

朝まだき 霞にむせぶ うぐひすは おのが古巣を とめやかぬらむ

春雨に 木ぬれ隠れて うぐひすの 枝のまにまに うつろひぞ鳴く

梅の花 折りてかざさむ うぐひすや 香をなつかしみ 袖にきぬるを

うぐひすの もの憂かる音に 鳴くなるは 春に知られぬ やどのしるしか

古巣いでて 梅が枝に鳴く うぐひすは みやこも雪の 消えずとや思ふ

梅が香に 思ひやわかぬ わぎもこが をる袖ちかく うぐひすの鳴く

うぐひすの 鳴きつる枝は たをれども 声の色こそ とまらざりけれ

たけに鳴く うぐひすながら 春来れば みな我が友と いふべかりけり

おのれさへ ねざめにけりな なよたけに まだふしながら うぐひすの鳴く

梅の花 咲くや遅きと 色も香も われ知り顔に 来ぬるうぐひす

いく程も すみはつましき やどとてや 花のねぐらに うぐひすの鳴く

梅の花 散りし果てなば ももちどり たけのふしどに 枝移りせよ

たえずのみ かくし来鳴かば うぐひすの 花踏み散らす 咎はゆるさむ