さきさかず さこそとふとも 山人よ 芽ぐまむ枝を 折りそへてくな
心あるか 心のなきか 吉野山 花まつ程の 峰の白雲
千載集・春
み吉野の 山した風や はらふらむ こずゑに帰る 花のしら雪
露ながら 折りてかざさむ 山櫻 雫に袖や しばし香れる
吉野山 峰越す風に 散る花や たかしの浦に よする白波
花ざかり 志賀の山風 吹くときは さざなみ寄せぬ このもとぞ無き
さくら咲く 春にしなれば をちこちの 山の端ごとに かかる白雲
み吉野の 花さきぬらし こぞもさぞ 峰にはかけし 八重の白雲
花の色を あかずながむる おもかげや うつろひゆかむ ときなかるべき
待ちしより かねて思ひし 散ることの けふにも花の なりにけるかな
山たかみ 峰の桜を たづねてぞ みやこの花は 見るべかりける
風をのみ 何か咎めむ さくら花 たをらば袖に 散りやかからぬ
新勅撰集・春
みよしのの はなのさかりと しりながら 猶しらくもと あやまたれつつ
折らずとて 散らでも果てし さくら花 この一枝は いへづとにせむ
花見れば ものおもひなしと いひおきし 人は散るをや 惜しまざりけむ
厭ひつる 春の山風 けふはさは 花のありかの みちしるべせよ
をちこちの 峰のさくらを 惜しむ間に 春はこころも そらに散りけり
花をこそ 折りてかざすに あやしくも 袂に雪の 降りかかるらむ
夜と共に 散るとも尽きぬ 花ならば 吹く春風の 待たれもやせむ
待てしばし あたりの松は 緑にて 桜にのみや 雪は降るべき