われひとり をらむと思ひし 山里の 花をたづねて 人も来にけり
山桜 散り来ざりせば かげにのみ 花や咲かまし 谷川の水
散らさでぞ 人も見に来む 何しかは 花のしとねを 風のしくらむ
み吉野の みかきの原は 荒れぬとも 花や昔の 色に散るらむ
さざなみや 長等のさくら 咲きぬれば 花もしけりな 志賀の山越え
み吉野は 山路ふみわけ ゆきかかり 花の吹雪も 人はとめけり
風をいたみ ひびきの灘を とほるひも 峰のさくらに めかれやはする
なかなかに いさたれこめて 花を見し 散りかふときは 憂さまさりけり
山路をば あらそひ来つる 程よりも 草のまとゐに むつれぬるかな
越えてさす 一枝ゆゑに 垣こしの 花を遅しと 待つぞわりなき
けふもまた たづねくらしつ 山桜 あらぬ木蔭に 旅寝せよとや
あかざりし 花の名残を 恋ひつつぞ 青葉が枝を をりをりは来る
春雨の ひをふるままに 片岡の 荻の焼け原 色づきにけり
やすみしる 君がみ垣の 藤の花 うへむらさきの 雲と見えけり
こずゑより 越えて落ち来る 藤波の ゐせきは松の しづ枝なりけり
軒端なる 松の千歳を 咲きこめて わがものにせる 藤の初花
風をいたみ 田子の浦わを 漕ぎゆけば また寄せ来るか 岸の藤波
藤の花 うつれるかげを もちながら しづ枝を波の 何とをるらむ
子の日せし 野辺にて君に 契らずば けふ早蕨の をりにこましや
うちやすむ みちゆきずりの 手すさびに をれる蕨は つかねだになし