和歌と俳句

石橋辰之助

1 2 3 4 5 6

死の来しは街に雪つむ夜半のとき

死に逢へる夜は真白なり雪あかり

子ら知らぬ雪の夜の死ぞ横たはる

ねむる子ら雪かぎりなく街うづむ

街の子の魚族のごとし北風すさぶ

北風すさぶ街に子はよく転ぶとも

夕べなほ真蒼き北風に子ら散らず

子らの身の汚れ絶えなく冬日暮る

かのひゞき瞠れば雪崩嶺を落つ

雪崩見よ岩群の日をうばひつゝ

蒼穹に雪崩れし谿のなほひゞく

雪崩見し穂高の岩にわがすがる

霧の夜の坂ゆき街のひとゝなる

煙草の火北吹く闇を街に出づ

樹氷林むらさき湧きて日闌けたり

蒼穹に日はうちふるへ樹氷満つ

咲く樹氷雲ひとひらの空のもと

光の玉樹氷に隕ちつ地に弾く

風なれば樹氷日を追いひ日をこぼす

日ぞ落ちし樹氷さまよひ息はずむ

岩きびし凍雪とびてひかり消ゆ

登山綱凍て瞼を濡らす雪とべり

雪崩あぐ蒼穹に雲ひるがへり

人小さく雪崩のがれて尾根はしれり

冬山の雪にまみれし身を羽搏つ

除雪夫の吹雪衝く夜の装なりし

吹雪荒れ地の雪けむりつぎて立つ

吹雪く闇除雪夫の灯の泳ぐ見ゆ

除雪夫に吹雪のひゞき鉄路うつ

吹雪たちトンネル口の燈をうばふ

吹雪く戸のくらくトンネル煌々たり

除雪夫に白魔の闇の涯ぞなき

除雪夫の炉火のおごりにわが泊つる

除雪夫の雪に耐え住む顔きびし

除雪夫の眼光たゞに炉火まもり

除雪夫の雪凍む夜は寝にやすく

除雪夫の寝息冴えきて寝むらえぬ

除雪夫の寝袋炉火と凍み果つる

家畜らの膚色しかと春来たり

若者の日照雨に濡るゝ春来たり

花ひらく蔭ゆき野ゆき疲れむと

花に彳ち農場の麺麭を喰ひちぎる

農場の春昼ひとり浴みしぬ