和歌と俳句

平畑静塔

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上雪を除け縄文のを舐む

ぬばたまの黒曜石の呼びし

大年にあり点点と日矢の郷

鐘の音をとどめて信濃年を閉ず

もがり笛左千夫に起り在りつづく

もがり笛信濃の教師耳かしこ

もがり笛息継ぐ茅野の尖石

本朝の雪達磨にてギリシア鼻

雪山に罪あり神父背向にす

敲くべき扉はなくて樹氷界

煙草火を吸ひて赤らむ樹氷園

樹氷林青き天路に出てしまふ

口紅を塗り足す樹氷林出づと

こごえては棟を寄せあふ諏訪どころ

氷波立つ男宮女宮とひきさかれ

戸障子を立てて神湖を凍らしむ

金屏風ひらく凍湖をくぎる幅

煮湯かけ石の凍解く御諏訪様

凍は吉神に焚火を賀しまつる

凍詣赤子黒目を両分に

会者定離死にてなくなる雪の塚

石棺も凍る蜆の湖の底

大鳥居霹靂と雪墜り落す

大凍小凍花時計保たれて

凍船の出る時刻なし花時計