和歌と俳句

西行

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秋風の ことに身にしむ 今宵かな 月さへ澄める 庭のけしきに

住む人の 心汲まるる 泉かな 昔をいかに 思ひ出づらん

今よりは 昔語りは 心せん あやしきまでに 袖しをれけり

馴れ来にし 都もうとく なりはてて かなしさ添ふる 秋の暮かな

新古今集・離別
君いなば 月待つとても ながめやらん 東の方の 夕暮の空

大原や まだ炭竈も ならはずと いひけん人を 今あらせばや

今だにも かかりといひし 滝つ瀬の その折までは 昔なりけん

まぎれつる 窓のあらしの 声とめて 更くるを告ぐる 水の音かな

玉みがく 露ぞ枕に 散りかかる 夢おどろかす 竹の嵐に

峰おろす 松のあらしの 音にまた 響きを添ふる 入相の鐘

夕されや 檜原の峰を 越えゆけば すごく聞ゆる 山鳩の声

波近き 磯の松が根 枕にて うらがなしきは 今宵のみかは

住吉の 松が根洗ふ 波の音を 梢にかくる 沖つ潮風

慕はれし なごりをこそは ながめつれ たちかへりにし 峰の秋霧

雪分けて 深き山路に 籠りなば 年返りてや 君に逢ふべき

かすめども 年のうちとは わかぬ間に 春を告ぐなる 山川の水

春としも なほおもはれぬ 心かな 雨ふる年の ここちのみして

年ははや 月なみかけて 越えにけり むべ摘みけらし ゑぐの若立ち

何となく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山

いつしかも 初春雨ぞ ふりにける 野邊の若菜も 生ひやしぬらむ