千世経べき 二葉の松の 生ひ先を 見る人いかに うれしかるらん
君がため 五葉の子の日 しつるかな たびたび千世を 経べきしるしに
子の日する 野辺のわれこそ 主なるを ごえうなしとて 曳く人のなき
この春は 枝々までに 栄ゆべし 枯れたる木だに 花は咲くめり
あはれにぞ 深き誓ひの 頼もしき 清き流れの 底汲まれつつ
行く末の 名にや流れん 常よりも 月澄みわたる 白川の水
風立たで 波を治むる 浦々に 小貝を群れて 拾ふなりけり
難波潟 潮干ば群れて いでたたん 白洲の埼の 小貝拾ひに
風吹けば 花咲く波の 折るたびに 桜貝寄る 三島江の浦
波洗ふ 衣の浦の 袖貝を 水際に風の たたみおくかな
波懸くる 吹上の浜の 簾貝 風もぞおろす いそぎ拾はん
潮染むる ますほの小貝 拾ふとて 色の浜とは いふにややるらん
波伏する 竹の泊りの 雀貝 うれしき世にも 逢ひにけるかな
波寄する 白良の浜の 烏貝 拾ひやすくも 思ほゆるかな
かひありな 君がみ袖に 覆はれて 心に合はぬ こともなき世は
山深み さこそあらめと 聞えつつ 音あはれなる 谷の川水
山深み 真木の葉分くる 月影は はげしき物の すごきなりけり
山深み 窓のつれづれ 訪ふものは 色づきそむる 櫨の立枝
山深み 苔の筵の 上にゐて 何心なく 鳴くましらかな
山深み 岩にしだるる 水溜めん かつがつ落つる 橡拾ふほど
山深み け近き鳥の 音はせで 物おそろしき 梟の声
山深み 木暗き峰の 梢より ものものしくも 渡る嵐か
山深み 榾切るなりと 聞えつつ 所にぎはふ 斧の音かな
山深み 入りて見と見る ものはみな あはれ催す けしきなるかな
山深み 馴るるかせぎの け近さに 世に遠ざかる ほどぞ知らるる