和歌と俳句

西行

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思ひ余り 言ひ出てこそ 池水の 深き心の ほどは知られめ

無き名こそ 飾磨の市に 立ちければ まだあひそめぬ 恋するものを

包めども 涙の色に 顕れて 忍ぶ思は 袖よりぞ散る

わりなしや 我も人目を 包むまに しひてもいはぬ 心づくしは

なかなかに 忍ぶ気色や しるからん かかる思に 習ひなき身は

気色をば あやめて人の 咎むとも 打まかせては 言はじとぞ思ふ

心には 忍ぶと思ふ かひもなく しるきは恋の 涙なりけり

色に出て いつより物は 思ふぞと 問ふ人あらば いかが答へん

逢ふ事の なくてやみぬる 物ならば 今見よ世にも ありやはつると

憂き身とて 忍ばば恋の 忍ばれて 人の名立てに なりもこそすれ

みさをなる 涙なりせば 唐衣 かけても人に 知られましやは

嘆きあまり 筆のすさみに 尽せども 思ふばかりは 書かれざりけり

わが嘆く 心の内の 苦しさを 何にたとへて 君に知られん

今はただ 忍ぶ心ぞ 包まれぬ 嘆かば人や おもひしるとて

心には 深くしめども 梅の花 折らぬ匂ひは かひなかりけり

さかとよと ほのかに人を 見つれども 覚えぬ夢の 心地こそすれ

新勅撰集・恋
消えかへり 暮まつ袖ぞ しをれぬる 起きつる人は 露ならねども

いかにせん そのさみだれの なごりより やがてをやまぬ 袖の雫を

さるほどの 契りは君に ありながら ゆかぬ心の 苦しきやなぞ

今はさは 覚えぬ夢に なしはてて 人に語らで 止みねとぞ思ふ